借金の返済を長期に渡って行わずにいると、悪質な滞納者として訴えを起こされることになります。
その訴え自体も無視し続けると、ついには「差し押さえ」という形で私財や給与の大半を強制的に徴収されることになってしまいます。
差し押さえを受けると生活や仕事の基盤が壊滅してしまうため、たとえ借金の全額を返せない場合であっても差し押さえだけは回避するように動くことが重要となります。
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差し押さえとは
差し押さえとは借金を返済しないままでいる人(債務者)の財産を強制的に徴収することを言います。
具体的には債務者の給与・預貯金・贅沢品などが取り上げられ、強制的に借金返済に回されます。
また差し押さえ処分は裁判所を通じて命令が出される「強制執行手続」の一種です。
そのため差し押さえが発生した事実は公的にも認められるものとなり、その情報が周囲に拡散してしまう恐れもあります。
たとえば勤め先の会社や親類、あるいは子どもが通う学校といった場所にまで差し押さえの事実が広まってしまう可能性があるのです。
ただし差し押さえは自動的に発生するわけではなく、お金を貸している人(債権者)が裁判所に訴えを起こすことによって初めて動き出します。
そのため借金がどうしても返せない場合は債権者と話し合いをすることで、差し押さえを回避できることがあります。
差し押さえを回避する方法としてもっとも多いのは債務整理と呼ばれる手続きです。
他に個人再生や自己破産といった借金そのものを減額や帳消しにする手続きもありますが、これらは適用に至るハードルが相当高いのであまり頼りにし過ぎないようにしましょう。
差し押さえが執行される原因
返済の滞納
差し押さえの原因として一番多いのは借金の返済滞納です。
ここで言う「借金」とは貸金業者によるキャッシングから銀行によるカードローンまで、様々な形式での借入金の全てを意味しています。
差し押さえというと「ヤミ金から借りたお金が返せなくて」といったシチュエーションばかりを想像する人もいますが、正規のルートで借りたお金であっても返済を滞納してしまえば同じように差し押さえは発生します。
税金の滞納
借金ではなく税金を滞納した場合も、国からの差し押さえが発生することがあります。
税金の申告漏れや脱税などによって返済が義務づけられたお金をいつまでも返さないままでいると、強制執行という形で差し押さえによる回収が始まってしまいます。
また意外と無視できなくなっているのが国民年金の未納です。
年金未納はこれまで見逃されることが多かったものの、最近は未納者への風当りも強くなり極端に未納を続けている人からは差し押さえを行う方向にシフトしています。
養育費の未払い
裁判によって支払い義務が確定している養育費を滞納し続けた場合も、差し押さえの対象となります。
離婚によって親権を失い養育費だけを払い続けることになった人のうち、かなりの割合が養育費の支払い拒否や滞納を起こします。
この問題は当事者間で解決しようとするとさらなるトラブルに発展しかねないため、基本的に養育費の滞納は差し押さえによって回収するのが一般的です。
差し押さえまでの目安
1.滞納2~3ヶ月で一括請求の通知が届く
返済するべきお金を滞納し続け債権者から訴えを起こされた場合であっても、いきなり差し押さえが始まるわけではありません。
まずは債権者やその代理となる弁護士から「催告書」や「差押予告通知」といった形で連絡が入ります。
これに反応しないままでいると、滞納から約2~3ヶ月ほどで「一括請求」の通知が届くことになります。
催告書や差押予告通知はあくまでお知らせであり法的な効力はありませんが、一括請求にまで至った場合は「滞納金の返済」に加えて「遅延損害金」の支払い義務が追加されてしまいます。
2.無視した場合は裁判所から支払督促が届く
一括請求の通知があったにもかかわらず、さらにそれを無視していると債権者やその弁護士ではなく今度は裁判所から直接の指導が行われます。
「仮執行宣言付支払督促」という通知は特別送達という特殊な郵便物で、これは裁判所が債務者に対して借金の返済を命じる正式な書類となっています。
支払督促を出された債務者は2週間以内に「異議申し立て」をする必要があり、それを怠った場合には債権者が正式に「債務名義」を取得し差し押さえた財産を回収できるようになります。
3.支払督促から1ヶ月程で差し押さえが強制執行される
支払督促や裁判所からの訴状に無反応を貫いていると、1ヶ月程度で実際に差し押さえが執行されます。
差し押さえ当日には事前通告はなく、突然やってきた人達に家財や給与を持っていかれることになります。
必要最低限の生活必需品と生活費は残してもらえますが、自動車やバイクといった移動手段やパソコンのような高級機材は差し押さえが入った時点で使えなくなると思っておきましょう。
またクレジットカードも差し押さえとほぼ同時に使えなくなります。
差し押さえが行われる順番
1.手取り給与の4分の1もしくは33万円を超過した分
差し押さえの優先順位のうち、一番上になるのは給与です。
ただし給与の全額が差し押さえられるわけではなく「手取りの4分の1、もしくは33万円を超過した金額まで」というルールがあります。
注意したいのは「給与4分の1」よりも「33万円を超過」の条件の方が優先順位でさらに上になる点です。
たとえば給与が手取り50万円だった場合、差し押さえ対象になるのは4分の1の12万5千円ではなく33万を超過した17万円になります。
2.銀行預金や債権
銀行預金や保有する債権も差し押さえの対象となります。
預金額に関しては給与とは異なり差し押さえ限度額が定められていません。
そのため基本的に差し押さえが行われた時点で口座が凍結され、預金の引き出しが一切できなくなる状態になります。
ただし差し押さえ後に改めて入金を行ったものは引き出すことが可能です。
債権とはたとえば生命保険のような「お金を受け取る権利」のことで、現金でなくとも財産の一種として差し押さえられることになります。
3.66万円以上の現金や換金できるもの
口座に預金せずタンス貯金をしていたとしても、家探しの際に「66万円以上の現金」が見つかった場合は差し押さえられます。
他にも換金可能な財産の多くが差し押さえ対象となります。
代表的なものは自動車・バイク・骨董品・アクセサリー類・金券類・家具などです。
生活必需品に該当するテレビや冷蔵庫などは差し押さえを免れますが、家に複数台の同じ家電がある場合は一部が差し押さえられることもあります。
4.不動産
家財だけでなく家そのものも差し押さえの対象です。
土地や建物、貸し物件といった不動産は換金が難しいため差し押さえの優先度は比較的低くなっていますが、他の方法で完済できないと当然ながら差し押さえられてしまいます。
特に住宅ローンがまだ残っている自宅も、住宅ローンには「抵当権」が含まれていることから差し押さえ対象となる点は注意しましょう。
差し押さえの対象にならないもの
66万円以下の現金や生活必需品
差し押さえ対象外となるものの代表は「66万円以下の現金と生活必需品」です。
先に述べたように預金には差し押さえ上限額がないので、差し押さえの可能性を少しでも感じたなら預金は66万円を目安に引き出しておいた方がいいでしょう。
また生活必需品というカテゴリーは少し曖昧さがあり、基本的には「衣類・家具・寝具・食器・畳」などが挙げられます。
ただし畳は必需品で絨毯は贅沢品なのか、などと言い出すとキリがない側面もあるため、通常は換金性の高いものだけを差し押さえるのが普通です。
仏具や位牌、印鑑なども金細工などでない限りは差し押さえ対象外となります。
年金や生活保護給付金など
年金や生活保護の給付金、そして児童手当などの補助金は差し押さえの対象外となります。
差し押さえ対象外となる理由は各お金ごとに異なっており、たとえば同じ年金でも国民年金の差し押さえを禁じる法律は「国民年金法第24条」で厚生年金の差し押さえを禁じる法律は「厚生年金保険法第41条」と根拠が違っています。
生活保護や児童手当となるとさらに複雑な法解釈が絡んでくるため、差し押さえが発生した際は個別に確認を取っておくようにしましょう。
家族や同居人の私物
差し押さえ対象とされるのはあくまで債務者の財産であり、たとえ同居人や家族であっても別人の私的財産が一緒に差し押さえられることはありません。
よく映画の取り立てシーンで子どものオモチャまで差し押さえるような描写がありますが、正規の裁判命令による差し押さえではそうした問題は起こらないことになります。
しかし家族の私物と債務者個人の財産を見分けることは難しく、また債務者が家族に財産を渡して隠してしまうケースも考えられます。
そのため差し押さえの妥当性を問い直す方法として「第三者意義の訴え」という制度も用意されています。
差し押さえられたら
信用情報に傷が付く
差し押さえが発生すると金融信用情報機関、いわゆる「クレジットヒストリー」に事故情報が残ることになります。
「信用情報に傷が付く」と表現することもありますが、この状態になると金融機関からは危険人物と判断されブラックリストに掲載されることになります。
ブラックリスト入りすると新規の借入が一切できなくなるのに加えて、現在所持しているクレジットカードも利用停止となるので注意しましょう。
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勤務先にバレる
差し押さえの対象にはまず給与が選ばれることが圧倒的に多く、そこから勤務先に差し押さえがバレることも当然覚悟する必要があります。
債務者に給与を支払っている勤務先は法的には「第三債務者」という立場に当たります。
そして給与の4分の1もしくは33万円を超過した金額を徴収する際には、債務者本人ではなく第三債務者である勤務先が代わりにお金を支払うことになるわけです。
これは会社側にとっては複雑な手続きを肩代わりさせられる非常に迷惑な話であり、債務者が勤務先の信頼を失うには十分過ぎる理由となります。
借金の消滅時効が更新される
借金にも実は時効制度が存在しています。
通常、最後の返済日から5年が経過すると「時効の援用」という法的手段を取ることで借金を「時効消滅」させることができるようになります。
この時効の援用は債務者側が債権者に対して行うものなので、それを防ぐためにも債権者は5年以内に差し押さえ手続きをする必要があるわけです。
そして差し押さえが成立すると、その時点で時効は中断されまたゼロから数え直しとなります。
裁判所や執行官の調査が入る
通常の差し押さえとは異なり、不動産の差し押さえに関しては裁判所や執行官が直接やってきて調査を行います。
家が競売にかけられる際はまず「競売開始決定通知」が届き、そのあと「現状調査に関する通知」が届きます。
この現状調査では執行官や不動産の鑑定人が家に入って直接調査を行うことになります。
強制力のある調査のため断ることはできず、また騒ぎが大きくなればご近所に差し押さえの事実が広まるきっかけにもなってしまうでしょう。
差し押さえを回避する
支払督促を無視せず返済する意思を見せる
差し押さえを回避するための最大のコツは、最初の通知の時点で無視をせず債権者やその弁護士、そして裁判所に対してしっかりと返済の意思を示すことです。
うっかり通知を見逃してしまったとしても、最後の支払督促だけは絶対に無視することなく対応してください。
裁判所はもちろん債権者もその弁護士も、別に債務者が差し押さえで破滅する未来を望んでいるわけではありません。
債務者が借金を少しでも返す意思を見せれば、必ず話を聞いてもらえます。
債務整理をする
自力での借金返済が不可能な場合は、弁護士や司法書士など法律とお金のプロに相談をして「債務整理」を行うようにしましょう。
債務整理とは簡単に言えば、現在の給与と財産状況を検分して「現実的に返せるだけの借金を返す」ことです。
債務整理にもいくつか種類があり、もっとも一般的な「任意整理」では債権者との直接交渉によって利息支払いなどを免除してもらうことになります。
債権者の納得が得られれば差し押さえまで発展しないため、給与を受け取り続けながら自分のペースで返済ができるようになるでしょう。
また、まったく返せるアテがない場合には「個人再生」や「自己破産」といった債務整理をすることになりますが、これらの方法にはデメリットも多いため利用には細心の注意が必要になるでしょう。
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税金滞納の場合の差し押さえを一時的に止める方法
納税の緩和措置
税金滞納による国からの差し押さえを受けそうな時は、納税に関する救済緩和措置を試してみましょう。
たとえば国民年金には収入の減少に合わせて減額や免除を申請できる制度が存在しています。
他にも災害時や離職時などに使える納税緩和制度は様々に用意されているため、その時の自身の状況に合わせた制度を上手く適用していくようにしましょう。
納税の猶予
一定の条件を満たすことで、納税に猶予期間を設けることもできます。
ただし税金の種類や猶予制度の違いによって、実際の支払いがどのように変化するのかは違ってくるので気をつけましょう。
猶予を申請することで納めるべき税金額そのものが減額される制度もあれば、あくまで支払いまでの期限が延長されるだけで納税の義務自体は残るものもあります。
換価の猶予
「換価の猶予」制度とは納税の猶予と並んで利用される国税未払いに対する救済制度です。
納税の猶予が災害や病気などの特別な事情による未払いを想定しているのに対して、換価の猶予には特定の原因が想定されていないという違いがあります。
つまり生活や事業の継続性が損なわれそうな自体全般に有効な制度が換価の猶予と言えるでしょう。
差し押さえについてのまとめ
差し押さえを受けると生活の全てがストップしてしまうだけでなく、これまで続けてきた仕事にも大きな支障をきたし再起不能なほどのダメージを負ってしまう可能性があります。
しかし差し押さえは借金返済を滞納した際の最終手段であり、そこに至るまでにはいくつもの回避ポイントが用意されています。
督促状などの注意を見逃さなければ債務整理などによって差し押さえは防ぐことが可能です。